Roy Harrod,Are These Hardships Necessary?,Rupert Hart-Davis,1947.

 この本はわずか10日で完成された。ハロッドは,47年8月時点での政府の政策を大至急に批判し,その修正を求める必要に迫られていたからであった。 
その批判の要点は,戦後イギリスの労働党政権による資本支出計画を削減せよ,ということであった。ケインズ主義といえば,財政拡大によるインフレ主義というイメージを抱きがちであるけれども,これは時と場合によらねばならない。超完全雇用下での財政支出拡大はケインズの名とはまったくかかわりのないただの愚行である。
 完全雇用の状況,労働力を含む生産資源の不足の状況での政府による資本支出は,その内容の是非をひとまずおくとしても,民間部門の生産資源を奪ってしまう。需要が供給を超過し,インフレ圧力が生じる。のみならず国際収支の大きな赤字も発生する。だから統制の必要がある。
 統制は国民の自由を奪う。ここでいう統制とは,物資の配給制であったり,輸入制限であったり。国際収支が赤字であっても,輸入制限は決して正当化されない。アメリカとともに新たな国際協調体制の模範となるべきイギリスが,自由貿易の原理を自ら侵すことは,先人の労苦を台無しにしてしまう。そもそも消費者は国内財,輸入財を問わず安くてよいものを消費する権利をもつ。戦争は終わったのである。人民は,好きなものを好きなだけ消費できるという最低限の自由を保障されねばならない。「貨幣は自由の砦」であり,「価格メカニズム」の復権をハロッドは訴える。そのためには政府支出の削減が第一に必要なのであった。
 本書の全体を貫くのは,ハロッドの正義感であり,経済学者としての義務感である。経済政策論議に関心をもつ方は,一読してみても損はないだろう。もちろん私のようなニートも得るところ大であった。